ブロックチェーン×DXはビジネスになるか?
今回の記事は、「SBI R3 Japan」が公開しているMediumから転載したものです。
より様々な内容の記事に興味のある方は、是非こちらにも訪れてみてください。
ブロックチェーン×DXはビジネスになるか?
はじめに
2020年末からBitcoinの価格が史上最高値を更新し続け、2021年2月には1BTC=500万円を超えました。過去を振り返ると、2017年末に200万円を突破した際に”仮想通貨”や”ブロックチェーン”、”出川組”といった単語がバズワード化し、その後の暴落も合わせて世間で話題になりました。
しかし、今回の値上がりは2017年末ほど話題になっていない気がします。
過去の話題になった時期にGoogleの検索窓で『ブロックチェーンとは』を入れて
- ブロックチェーンはなんだか将来的に使えそうな技術らしい
- 一方、仮想通貨は投機の対象になってしまったため、技術の発展と関係なく価格が乱高下しているのだろう
という結論に至ってブラウザのタブを閉じた人も多いのではないでしょうか?
今回は、実はその”なんだか将来的に使えそうな技術”と思われていたブロックチェーンは、2021年では既に実用化され、新たなビジネスを生んでいますという話をしたいと思います。
タイで10,000社が導入する電子受発注システム
今回紹介するB2P(Procure-to-Pay)は、ブロックチェーンを用いて会社間の受発注+銀行からのファイナンス手続きを電子化するアプリケーションです。
B2Pは製造業の原材料調達や建設の資材調達の場面で使われています。これまで紙や電話、Fax等で行われていた
①発注、②納品、③請求
を画面でボタンをポチポチすれば処理できるように電子化しました。 加えて、③の請求データを銀行に共有することで④インボイスファイナンスを即座に受けることができます。
また、ERP等の既存システムに繋ぎこんで使うことも可能です。
タイでは、セメントや建設資材を扱う国内大手のサイアム・セメント社を中核にした巨大コングロマリットであるサイアム・セメントグループと、そのサプライチェーンを構成するバイヤー、サプライヤー企業群を中心に10,000社以上でB2Pが導入されています。 また、サイアム商業銀行(SCB)がインボイスファイナンスを提供しています。
ポイントは
- 10,000社が導入済み
- 2018年より2年以上稼働
- 明確なビジネスモデル
の3点です。
明確なビジネスモデル
このB2Pを開発したのは、B2P上でインボイスファイナンスを提供しているサイアム商業銀行のIT子会社である、Digital Venturesです。
アプリユーザーである材料業者や資材メーカーにとっては、基本的にB2P自体は電子受発注アプリです。B2P上の請求書データをサイアム商業銀行に共有すると、インボイスファイナンスを即時に受けられるので、その分現金を素早く調達可能(=運転資金の調達コスト減)です。
サイアム商業銀行から見ると
B2Pの導入会社数
=インボイスファイナンスの潜在顧客数
=10,000社
となるので、子会社が作った電子受発注システムを導入してもらうことで、非常に大きな顧客ネットワークを構築することができています。
もちろんB2Pを利用する企業の中には、サイアム商業銀行と既に取引のある企業もある程度含まれていると思います。ただ、Digital Venturesによれば、B2Pを導入した企業のうちCOVID-19の影響を受けていない会社の支払高の約7%で既にインボイスファイナンス機能が利用されているなど、導入効果をあげています。
会社間取引のアプリケーションは、支配的なポジションにいる企業が導入すれば、それに追随する形で取引先や業界に波及していくことが予想されます。
サイアム商業銀行の場合は、同じサイアムグループのサイアムセメント社に初期ユーザーになってもらう戦略をとりました。同社はサイアムセメントグループの中で影響力のあるバイヤーであったため、自然とその取引先のB2P導入が進みました。
構築された10,000社の顧客ネットワークには、こういった影響力のあるバイヤーが70社ほどいるそうです。
実際のところ、電子受発注機能の利用料は初年度無料!のようなマーケティング手法も使ったようなのですが、商用リリースから2年半で10,000社導入のスピード感には注目すべきでしょう。(なお、10,000社のうち8,500社は2020年に導入した企業で、2021年はさらに10,000社以上の導入を目指すとのことでした、、)
さらにサイアムセメント社によると、以前は紙ベースで行われていた受発注の書類の処理業務に当たっていた人員を200名を、B2P導入により20名へ削減できたそうです。(90%減!)日本の人件費の基準で考えれば、人件費300万円/年×180人≒5.4億円ぐらいの削減効果でしょうか。
ブロックチェーンによるDXにより、金融機関にとっても、顧客にとってもWin-Winなネットワークを構築できています。
既存のシステムと何が違うのか
B2Pのような、金融機関やメーカーにとって嬉しいブロックチェーンを使った仕組みは、既存のシステムとは何が違うのでしょうか?
- データを集中管理せずに一元化
- 企業間取引の初めから終わりまで自動化可
順に紹介していきます。
1.データを集中管理せずに一元化
まずは、集中型のSaas受発注システムを想像してみましょう。IDとログインパスワードをもって、Webブラウザからアクセスすればすぐに使える業務アプリのイメージです。
集中型システムを使用しているとき、受発注や請求データはいったい誰が保管しているのでしょうか? 多くの場合は第三者である受発注アプリ(サービス)の提供者、横文字で言うとプラットフォーマーになると思います。
このとき、取引の当事者ではない第三者にサプライチェーンで発生する機密データをすべて預けても大丈夫でしょうか? 自社データを預けるのはもちろん、取引先にも機密データを預けてくださいとお願いする必要があります。
また当然ですが、この第三者のサーバーが止まると利用者全員がアプリを使えなくなります。
一方、ブロックチェーンを使った分散システムでは、データは自社サーバーにおいたまま、取引に必要な部分を取引先と共有可能です。
なお、このデータは電子署名(電子的な判子みたいなもの)により、押印された契約書のような信頼性を保ったまま、取引先と共有することもできます。
つまり、データを集中管理せずに一元化(1つの事実として扱う)ができるのです。
これまで通り自社のデータは自社で管理することになるので、Saas型のサービスを導入して第三者にデータを預けるよりも、逆に受け入れやすいかもしれません。
また、たとえある会社のサーバーが止まっても、止まった会社のみに影響が出るので、取引関係のない会社はいつも通り使うことができます。
2.企業間取引の初めから終わりまで自動化可
ブロックチェーンがもたらす、”契約書のような信頼性を保ったデータを企業間で共有”は、さらに嬉しいことを実現できます。
一言で言うと、”ブロックチェーン上のデータを参照し、契約から支払いまでを自動執行する”ことが可能になります。
B2Pを例にとると、今の機能ではありませんが将来的に以下のことができるようになるかもしれません。
①発注書データ送付
②契約し、納品書データ送付
③-1請求書データ送付
③-2 バイヤーが受け取った請求データに対し、企業グループ内の企業間で使える決済用コインで自動支払い
④請求書データを金融機関に連携し、ファイナンス依頼
⑤事前に定義したファイナンス条件をもとに、AIが自動で審査結果を通知、決済用コインで自動支払い
こうすると、①の発注から⑤のファイナンスまで、一人の事務員の手を経ることなく、自動で行うことができます。実際には、決済用コインの発行に関して法律面の整理や、自動ファイナンスに対応した与信の考え方のアップデートが必要かもしれません。
しかし自動であるということは、当然『間違えない』し『特殊技能を必要としない』ので、事業のリスクの低減とコスト削減に寄与します。
また”決済用コイン”を発行し、企業グループ内の企業間決済に用いることで、現金を扱うコスト(振込手数料とか人件費とか)を削減することができます。そればかりか、元々銀行から借り入れていた大量の運転資金のうちグループ内の決済に使う分の額をかなり縮小させることも可能です。
もちろんこの事実は金融機関にとって必ずしも嬉しいことではありませんが、自行のお客様が”自社グループ用の決済用コインを発行してくれる他行”に乗り換えてしまうようなことがあれば、そんなことを言っている場合でもなくなりそうです。
企業グループ内コインについては以下のブログでわかりやすくまとめられています。
終わりに
ブロックチェーンは”なんだか将来的に使えそうな技術”のフェーズをとうに脱し、2年半で10,000社の顧客ネットワークを構築したサイアム商業銀行の事例のように、新たなビジネスを生んでいます。 日本もトヨタ通商システムズが、トヨタグループ向けの商取引DX基盤をリリースするなど、すでに大手は動いています。